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【インタビュー】直感に導かれてみることの大切さ──町田奈緒士さん

直感に導かれてみることの大切さ──町田奈緒士さん

町田奈緒士さん(名古屋大学 ジェンダーダイバーシティセンター 特任助教)

 

町田さんは、「トランスジェンダーを生きる」体験に伴う実感や身体感覚を、インタビュー調査や対話的な自己エスノグラフィをもとに研究しています。2年間のT-GExフェローを経て、2024年4月から奈良女子大学 講師への着任が決まりました。

── ご栄転おめでとうございます!町田さんがT-GExに参加されたのは、2021年に名大に着任して間もない頃でしたね。
はい、名大在籍中のほとんどの期間、T-GExに参加していた形です。記憶に占めるウエイトとしても大きくて、以前T-GExを終了した方が「名大生活=T-GEx 」と表現されていた気持ちがよく分かります。研究費だけでなく、研究者としての力を育てていただき、参加して本当によかったなと思うプログラムです。実は、今だから言えますが、応募書類を書いていながらも申請を迷っていました。でも締め切り前日に、やっぱり出そうかな、エイヤ!と出したところ、面接に進めるとの連絡があり、自分でも驚きました。

── 運命の分かれ道になったようですが、驚いたというのは…?
「意外」だったんです。それまで、学振のDC、PD※…ことごとく落ち続けていて、T-GExも多分ダメだろうと思っていました。それに、T-GExに参加している研究者は理系研究者が多く、文系でも科学技術を使うものや国際的な研究内容だと思っていました。いわゆる「キラキラ研究者」でないと無理かな、と。分岐点で直感的に決めてしまった感じですが、参加するかどうかで、名大生活は間違いなく変わっていたと思います。
※独立行政法人 日本学術振興会(学振)の特別研究員制度。DCは博士課程学生向け、PDは博士号取得者向けに、生活費と研究費(科研費)を支援している。

── T-GExに応募しようと思った「直感」の根底にはどんな心境があったのでしょうか。
そうですね…。国の研究費を取れないので、出せそうな助成プログラムを探していたこと、同世代の研究者のみなさんと交流できる機会が欲しいなと思っていたことがありますね。着任したジェンダーダイバーシティセンターは小規模の部局で、同僚と呼べるような同年代も少なくて。T-GExは、研究費の助成だけでなく、学内外の研究者と交流できそうだし、若手育成ということで研究者としての力も身につきそうな点に惹かれたことを覚えています。

 

2023年度の研究成果エキシビションでは優秀発表賞を受賞した。学内外の研究者と対面で幅広く交流する機会となった。

 

── T-GExのプログラムで、研究資金以外の部分にも興味を持っていただけたんですね。
はい。嬉しいことに、T-GExに通った後、初めて科研費に通ったんですよ。提出期限の直前に、ちょうどT-GExの合宿があって、熊坂さん(若手研究者担当URA、本インタビューのインタビュアー)に申請書指導していただいて。あのサポートがなかったら取れていなかったと思います。

── あの時も直前でしたね(笑)。町田さんは、プログラムを通じて、T-GExアソシエートの研究者と共同研究をスタートさせていますね。
はい、シーズ共同研究(T-GExフェローやアソシエートとの共同研究や共同事業)の機会を利用して、中部大学の田中秀紀先生と共同研究を始めることができました。田中先生とは偶然にも出身大学が同じでした。今、共通の知り合いの先生にも共同研究メンバーに加わっていただきました。私はこれまで共同研究の経験がほとんどなくて、他の方の研究の進め方を知ることで自分の研究の幅を広げたいと思っていました。だから田中先生と知り合えたことは、T-GExに入って良かったことの上位に挙げたいですね。

── 周りからも二人はとても良いコンビネーションだと評判ですよ。町田さんは他にもさまざまなプログラムに積極的に参加されていましたが、印象に残っているものはありますか?
やっぱり、2023年11月の研究成果エキシビションで幹事を務めたことですね。ちょうどリーダーシッププログラムを受けた後で、理論から実践という理想的な流れだったように思います。でも、心配もありました。私は典型的なリーダーシップを発揮するタイプではないので。ですが、T-GExフェローやアソシエートのみなさんがとても協力的に役割を引き受けて実行してくれて、救われました。私はそれを見守る感じで、なんとか盛会に終えることができました。

 

2023年度の研究成果エキシビションで、町田さん(写真左)幹事リーダーとして全体を統括。共同研究を一緒に行っている田中さん(写真右)は幹事メンバーとしてサポートした。

 

── 心配もあったんですね。「典型的なリーダーシップを発揮するタイプではない」と自覚しながらも幹事に手を挙げたのは、リーダーシッププログラムの影響もあったりしますか?
そうなんです。リーダーシッププログラムの最終回、参加者同士の話合いで、「個々のリーダーシップがあっていいんだよ」という話になりました。みんなを一つの方向に引っ張っていく従来型のリーダーシップじゃなくても、自分が得意なところを活かしたリーダーシップもアリだよね、と。私は他の人の意見を聞くのが好きなので、それを活かしたリーダーシップもありかな?と思いました。研究成果エキシビションでは、それを実践しながら学んだ部分も大きいです。盛会となったことは、「自分もやればできるんや…!」と思える体験となりました。実は私が尊敬している先生を演者として呼ぶことができたこともあって、一層印象深いイベントだったんですよ。

── 町田さんが、幹事一人ひとりと正面から向き合って、「こういう意味なんですね」と確認していた姿が印象的です。こういうテクニックのリーダーもいるんだなぁと感じていました。当日はロールモデルの先生も来場されていたんですね。どんなところに憧れるのですか?
その先生は私と同じく心理学をご専門にされているのですが、大学で教鞭を取りつつ、臨床も続けていらっしゃいます。大学の業務で忙しいのに、臨床もすごく深い。クライエントさんのことを理解するために研究していることが、文章からも伝わってくるんです。先生の「研究と臨床の循環」には強く憧れますね。心理士だけで生きていく選択肢にも惹かれていたんですけど、先生への憧れが「やっぱり研究も実践も両方続けたいな」と思わせてくれます。

── T-GExには「研究だけに専念したい」タイプの研究者も多い印象ですが、町田さんは最初から研究以外に視野が広い印象でした。転出先の奈良女子大でも両方続けていけそうですか?
はい。学外の臨床活動については、T-GExのメンターの先生との面談で、どんなクリニックで勤務していくのがいいか、非常勤先を探す手がかりや実践的なアドバイスもいただきありがたかったです。加えて、奈良女子大では、学生さんへの授業やゼミ活動のウエイトが増える予定です。私の研究は、研究室内でのみ進められるタイプのものではないので、臨床も教育も研究もバランスよくやる方が充実感もあるし、他の活動があることで「こっちも頑張ろう!」って思えるんです。手を伸ばしすぎて、“全部が疎かになっている”と言われることもありますし、“研究だけに尽力していける方ってすごいな!”とも思いますが、自分はこのスタイルかな、と思います。

 

2022年3月に出版された町田さんの著書を手に。エピローグに、「これは終わりではなくスタート」と書いたことをT-GExの支援で実行できた、と町田さん。

 

── メンタリングプログラムの活用の仕方はそれぞれですが、町田さんはそんなふうに活用されたんですね。
私の場合は、教育学研究科などにご在籍の心理学の研究者と知り合いになりたいな、と思っていたので、メンターの先生が教育学研究科の方だったことはありがたかったです。いきなりメールを送ったら不審に思われてしまうかな、と心配があったのですが、「メンタリングプログラムでご相談したいんです」と前置きがあると連絡しやすいですよね。面談では、研究内容をブラッシュアップさせるだけではなく、任期つきの名大のポジションの「次」についてもアドバイスをいただけました。

── T-GExで得たことを、今後どう活かせそうですか?
まだ具体的にイメージできていない部分も多いのですが、T-GEx をきっかけに始めた共同研究を、科研費の課題の中に位置づけながら継続したいと思い描いています。奈良女子大では初めてゼミ生を教育する立場になるので、今後T-GEx で知り合ったメンバーと相談していけたらと思います。育てる経験を少しずつ積みながら、自分が育てた人が新たなものを残していけるように、後進の育成も意識したいですね。

── 現役、そして将来のT-GExフェローやアソシエート※にメッセージをお願いします。
まずはお世話になったみなさまに感謝の気持ちをお伝えしたいです。今後の研究で繋がれるかもしれないご縁もありがたく思います。そして、今後T-GEx フェローやアソシエートを目指されるみなさまには、単に研究資金を助成してもらえるだけではなく、人との繋がりや、たとえ現時点での自分にできるか自信が持てずとも、今後の可能性を拡げるような体験ができるようサポートしてくれるプログラムであることを強調してお伝えしたいです。今日のインタビューにもありましたが、自分としては欠点に思うところが「他者からはむしろ長所として映るんだ!」と気づけることも多くありました。私は、直感に導かれる形でT-GEx参加を決めたことを本当に良かったと思っています。何かしら引っかかったものを信じて行動を起こすとが、今後に繋がっていくんじゃないかなと思います。
※ T-GExフェローは名古屋大学・岐阜大学の研究者、T-GExアソシエートは東海圏の連携学術機関の研究者

インタビュー:熊坂真由子(学術研究・産学官連携推進本部URA)
文:丸山恵、吉田有人(学術研究・産学官連携推進本部URA)

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