発達心理学
臨床心理学
質的研究
町田 奈緒士[所属期間 令和4年4月-令和6年3月]
MACHIDA Naoto
2022年度採用
名古屋大学
ジェンダーダイバーシティセンター
特任助教
研究領域:人文・社会
専門分野
キーワード
トランスジェンダー
語り合い法
所属学協会
日本質的心理学会
日本心理学会
日本心理臨床学会
GID(性同一性障害)学会
主な研究内容
トランスジェンダーを生きるという体験に伴われる実感や身体感覚(「質感」)について、インタビュー調査や対話的な自己エスノグラフィをもとに探究してきました。これまでに実施してきた研究内容は、主に以下の3点になります。
第一に、性別違和を関係論的視座から捉え直すことを目的として、インタビュー調査を分析しました。その結果、性は他者との関係性の歴史によって形成されてきた振る舞いの様式や存在のあり方であり、他者から〈雰囲気〉のように感じ取られることを導出しました。
第二に、トランスジェンダーの人々の体験に伴われる実感に焦点を当てた分析を行いました。分析結果を踏まえ、息をひそめる感じ、後ろめたさといった、トランスジェンダーを生きるという体験に伴われる実感の諸側面について論じました。そこから、トランスジェンダーの諸実感の背後には、社会の中に用意された女性ないしは男性という性役割に、自らをはめ込むように生活をしなければならないというという構造があることを見出しました。この現象を〈擬態〉と名付け、これがトランスジェンダーの体験世界の複雑さを照らし出すことができる概念であることを論じました。
第三に、協力者の語りをより深く考察するため、トランスジェンダー当事者としての調査者自身の体験の深部構造を、他者との対話の中で探索していく対話的な自己エスノグラフィを実施しました。その結果とインタビュー調査の結果を響かせ合いながら分析を行いました。分析から、「トランスジェンダー」といった社会・言語的な概念が、トランスジェンダー当人が自らの未分化な感覚をおさめるための受け皿となりえますが、それ以上に、そうした前言語的な感覚や雰囲気を感受してくれる他者の存在が重要であることを示しました。そうした社会・言語的な概念ならびに具体的他者を、ともにトランスジェンダーの未分化な感覚に収めどころを与えてくれるものとして、〈器〉と名付けました。
論文
町田奈緒士『トランスジェンダーを生きる:語り合いから描く体験の「質感」』ミネルヴァ書房(単著)2022年
町田 奈緒士 トランスジェンダーを生きる体験に伴われる実感の探索的検討. 人間性心理学研究, 37(2), 2020, 28–35.
研究紹介
researchmap https://researchmap.jp/n.machida
本事業を通じて解決を目指す世界的課題
発達障害を持つトランスジェンダーの人々の実態と体験世界の解明
近年、トランスジェンダー(TG)をめぐる国際的研究の文脈において、TGの人々に発達障害(特に自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症)を有する者の割合が高いことが指摘され始めた。また、発達障害を持つTGの人々にうつ病ならびに不安症の発症率が高いなど、二次障害の抱えやすさが報告されている。彼らの精神的健康の向上のため、まずはその①実態や体験世界を解明するような研究と、②心理社会的サポート体制の構築に向けての足掛かりを得るような研究が必要である。これらの研究の実施によって、発達と性の多様性に関わる各々の単独研究では等閑視されていた人々の体験を浮かび上がらせるとともに、彼らに対する支援体制の充実を図っていくことが可能になる。
インタビュー
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