神経科学
発生学
免疫学
服部 祐季
HATTORI Yuki
2021年度採用
名古屋大学
大学院医学系研究科
准教授
研究領域:ライフサイエンス
専門分野
キーワード
ミクログリア
大脳
脳発生
グリア
母体炎症
所属学協会
日本解剖学会
日本神経科学学会
日本神経化学会
日本分子生物学会
日本発生生物学会
Society for Neuroscience
主な研究内容
胎生期から生後にわたって時々刻々と進行する脳発生は、種々のステップが緻密に制御されて成り立っている。脳室面で誕生した神経幹細胞は分裂か分化のいずれかの運命選択をし、分化方向に進んだ細胞は、前駆細胞を経てニューロン、アストロサイトやオリゴデンドロサイトへと成熟する。そのメカニズムについて、従来は神経系細胞のみに焦点を当てた研究が展開されてきたが、免疫系のミクログリアの関与も近年注目されている。国内外の研究グループの成果から、発達期の大脳においてミクログリアが神経前駆細胞の分化の促進や数の調節、ニューロンの配置を制御していることが分かってきた。興味深いことに、ミクログリアは胎齢の進行に伴い大脳内での分布を変化させる。私たちは最近、胎生中期に特徴的なミクログリアの移動メカニズムを明らかにし、皮質板と呼ばれる成熟ニューロンが蓄積する領域から一時的に離れることによって、その場に存在するニューロンの最終的な成熟プロセスを乱さぬよう自身の居場所調節を行っていることを見出した(1)。一方、ミクログリアは神経系細胞以外に血管内皮細胞とも相互作用し、血管形成に関わることが報告されている。最近の私たちの研究成果から、大脳内において血管内皮細胞の周囲に存在するペリサイトがミクログリアの増殖や生存維持に貢献していることを明らかにした(2)。
近年、ミクログリアには遺伝子発現的に多様性が存在することが報告されている。現在私は、多様性を生み出す要因の一つとしてミクログリア前駆細胞が脳にたどり着くまでの進入経路や定着のタイミングの違いが関わる可能性について検証を行っている。マウス脳スライス培養や生きた胎仔のin vivoライブイメージングを駆使し、ミクログリア、そして周囲の神経前駆細胞やニューロン、血管構成細胞など多様な細胞種との相互作用の実態を把握し、その生理学的意義について解明すべく研究を進めている。
論文
Hattori Y, Naito Y, Tsugawa Y, Nonaka S, Wake H, Nagasawa T, Kawaguchi A, Miyata T. Transient microglial absence assists postmigratory neurons in proper differentiation. Nat. Commun. 11, 1631 (2020).
Hattori Y, Itoh H, Tsugawa Y, Nishida Y, Kurata K, Uemura A, Miyata T. Embyonic pericytes promote microglial homeostasis and their effects on neural progenitors in the developing cortex. J. Neurosci. 42 (3), 362–376 (2022).
研究紹介
researchmap https://researchmap.jp/yukihattori
研究室ウェブサイト https://www.takaki-miyata-lab.org
神経化学トピックス(過去の研究内容についての記事) https://www.neurochemistry.jp/mu0czb0qu-15/#_15
本事業を通じて解決を目指す世界的課題
母体炎症によるミクログリア活性化と脳発生への影響の解明
本研究は、胎生期におけるミクログリアの大脳への分布ルートと多様性誕生の関連性を検証するとともに、個々のミクログリアの性質と神経系細胞や血管に対する機能発揮の違いについて調査する。マウス胎仔脳のスライス培養や生きた胎仔のin vivoイメージングシステム技術の開発・改良を行い、細胞同士の相互作用の意義を理解し、ミクログリアの機能的役割を明らかにする。さらに、母体のウイルス・細菌感染症、低栄養等による免疫活性化が胎児脳内のミクログリアの性質をいかに変化させるかを理解し、神経系細胞や血管の発生に与える影響と、それに起因する脳発生異常を解明する。将来的には精神疾患や聴覚障害等の早期診断・予防・治療法開発に向けた研究展開を目指し、本課題を通じて学術的および技術的基盤の確立を目指す。
インタビュー
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