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【インタビュー】T-GExのネットワーク、次世代にも引き継ぎたい──市原大輔さん

T-GExのネットワーク、次世代にも引き継ぎたい──市原大輔さん

市原大輔さん(名古屋大学大学院工学研究科 助教)

 

航空宇宙工学の分野で、衝撃波や電離反応を伴う超音速流体力学を専門とする市原さんは、2年間のT-GExフェローを経て、2024年4月から九州工業大学 准教授への着任が決まりました。

── ご栄転おめでとうございます!ご転出前の今の心持ちを聞かせてください。
僕は出身が名古屋大学で、学生の頃から同じ研究室、同じ指導教官でここまできました。やっと卒業できます!独り立ちできるのは嬉しいですね。

── T-GExに参加してみて、いかがでしたか?
専門は違うけれど年齢が近い優秀な仲間とつながれたことは大きいですね。自分以上のレベル感の人しかいない集団に入ったわけなので、緊張感もあるし、気合も入りますよね。Slackを通じて、論文がこのジャーナルに載りましたとか、たくさんのメディアに引用されましたといった情報もバンバン入ってきますし。みんなとの交流を通じて、自分が目指すべき研究のレベルとスケール感とが定まったなと思います。

── 研究の「レベルとスケール感」とは具体的に?
次に行くのは工業大学です。名大のような総合大学と違って、分野がある程度限定されているんじゃないかと思うんです。その中で自分のレベルを落とさず、どうやって独り立ちするか──その基準に、T-GExのみんなが取り組んでいるような,小手先ではなく本質的な課題を捉えているのか,専門領域だけにとどまっていないか,社会的に大きなインパクトを与えられるか,企業との共同研究を含めスケールアップのための道筋は見えているのか,といった観点で参考にできる前例に直に触れられた点が心強いです。

── 市原さんは、なぜT-GExに応募しようと思ったのですか?
一番の理由は、やはり研究費を支援してもらえることです。僕は2021年4月に創発(JSTの創発的研究支援事業)に通っているんですが、自分の専門分野から飛び出した応用的な研究テーマで、結構チャレンジングな内容なので、ステージゲートをクリアして長く研究できるか心配がありました。T-GExでは、専門のプラズマ物理や超音速流体力学のテーマで予算を確保できるのが魅力でした。

 

創発の研究テーマである「貼る注射器」。衝撃波の原理を応用し、刺激を与えると薬剤が体内に入る。2027年までに、臨床試験を行える段階まで持っていきたい、と市原さん。

 

── 専門性を深堀りしつつ、横に広げている感じでしょうか。
そうですね。でも僕の場合はドクターを取ってからそれほど年数が経っていないので、もっと専門性を深めてから応用に目を向けてもよかったかもしれません。結果的にどっちつかずになってしまったのではないかという反省もあります。

── T-GExフェローの1/4が、市原さんのように創発も獲っています。今のお話だと、両立は難しかったですか?
実は、僕自身は少しやり方を失敗したかなと感じていて…。僕のラボでは、助教は学生を持たないのが基本スタイルです。一人で二つのテーマをカバーするのは、かなり大変でした。物品購入に研究費の多くを費やしたんですが、今振り返ると、スタッフを雇うべきだったと思います。

── 小さなお子さんもいて、私生活でも忙しい日々だったと思います…。
子育てはそれほど負担には思っていません。研究だけだと逆につらいですし、保育園の送迎、食事、お風呂、寝かしつけ、といったサイクルに自分の時間を合わせていけばいいので。分野によるかもしれませんが、研究職はスケジュールの自由度が高めなので、子育てに向くのかなと思います。でも、研究と子育てのバランスは必要ですね。以前、創発の審査を控え、寝かしつけ後に大学に戻って徹夜実験をしていたことがあります。しかし、家族からの声がけに上の空のような返事ばかりしてしまい、結局、家族も自分もイライラの悪循環で、続きませんでした…。

── そんな状況下でも、第1回研究成果エキシビションで幹事リーダーを務めたり、シーズ共同研究(T-GEx研究者との共同研究)にも手をあげたり、積極的に活動されていましたね。
T-GExプログラムにはいろいろな取組みがあって、当初は何でも手当たり次第やってみようと意気込んでいました(笑)。もう少し考えて取り組めばよかったと反省もありますが、T-GExの仲間や支援してくれるURAの方々に助けられました。

 

幹事リーダーを務めた第1回研究成果エキシビションにて、進行中の研究を発表。多くの参加者の関心を集めた。

 

── T-GExでの経験を経て、今後の抱負は?
「社会課題を解決する」ことに気持ちが向いています。自分の研究の領域としても、何らかの現象を解明するというより、工学的に役立つものを提案していきたいです。それが今取り組んでいる医療なのか、環境なのか…、せめてどちらかはものにしたいなって思っています。

 

研究者を目指すきっかけとなった日経サイエンス2009年5月号。プラズマロケットと題する10ページの特集に魅せられ、何度も繰り返し読み込んだそう。思い入れのある本誌の2024年3月号に、ついに自身の「貼る注射器」の研究が掲載された。

 

── T-GExプログラムには、ベテラン研究者がメンターとしてキャリアの相談に応じるサポートもありますが、市原さんはどのように活用しましたか?
年2回の面談は、指導教官以外の研究者から意見をもらえる貴重な機会でした。僕は今所属している研究室しか知らないので、他の研究室の様子や研究スタイルを知ることで気づきや学びもありました。ただ、メンターの先生方と専門分野や世代が違うこともあって、キャリア相談という点では、100%活用できたとはいえないかもしれません。

── 今後のキャリアにどんな展望を抱いていますか?
次の世代を育てる指導者になりたいですね。大学の研究者は教育者でもある訳ですが、僕はそこが欠けているので。今、ネットワーク作りに関するセミナーが多いじゃないですか。個人的にも大事だと思っているんですが、作ったネットワークを次の世代に引き継いでいくことも必要だと思うんです。僕の世代だけハッピーでした、とならないように。

── 重要なポイントですね。日本の研究者が置かれた現状は厳しいですが、今の若手研究者が指導者の立場になって、少しずつでも変えていって欲しいです。最後に、T-GExフェローやアソシエート※にメッセージをお願いします。
まず、「ありがとうございました!」と伝えたいです。広いつながりができて、視野も広がり、友達も増えました。今後、どこかの論文で著者の中にみなさんを見つけたら「おぉー!」って喜ぶと思いますし、自分もそんな風に見つけてもらいたいなと思います。直接会えなくても、頑張り合っていきましょう。

※ T-GExフェローは名古屋大学・岐阜大学の研究者、T-GExアソシエートは東海圏の連携学術機関の研究者


インタビュー:熊坂真由子(学術研究・産学官連携推進本部URA)
文:丸山恵、吉田有人(学術研究・産学官連携推進本部URA)

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